Out Run

2015.11.24 | アーケード

あなたの中で最も思い入れのあるゲームはなんですか───そう聞かれたら私は迷わず本作を挙げる。ドライブゲーム史上の金字塔、アウトランである。

アウトラン © SEGA 1986

当時の私は高校生。このゲームには恋愛に似た感情を持っていたと言ってもいい。とにかくこのゲームが好きだった。そして恐らく最もお金をつぎ込んだゲームでもある。(ちなみに女性にお金をつぎ込んだことは無い)
そもそもこの懐古ゲーム記を書こうと思ったのも、記事を復活させたのも、いずれこのゲームについて書いておきたかったからなのだが、いざ書こうとすると何から書いていいか迷ってしまう。なのでずっと後回しにしていてとうとう7年以上経過してしまった。

書くことがいっぱいあるので、テーマを分けて書くことにする。

●サウンド
VGM(Video Game Music)としても、アウトランはこれまでの常識を覆したと言っても良かった。それはドラムの存在である。
ドラム自体は、スペースハリアーなどそれ以前にもあったのだが、アウトランのドラムは確かサンプリング音で、リアル感が全く違った。
これまでアーケードゲームの音楽といえば、電子音、いわゆるピコピコ音が代名詞であった。それがアウトランによって一気にフュージョン色が強まり、単に音楽としてでも鑑賞に耐えうる楽曲に変わるキッカケになったと思う。
今聴き返すと、さすがに古臭さは否めないが、当時はこの音楽を聞きたいがためにプレイしていたと言っても過言ではない。
そしてこのサウンドに魅了された私は、MIDIの世界にも興味を持ち、どっぷりとハマっていくことになる。ちょっと本題からはそれるが、MIDIの話について少し書いておこう。

もともとコンピュータによる自動演奏には興味があった私は、高校のころからマイコンBASICマガジン(通称ベーマガ)に載っていた楽譜やMML(Music Macro Language)を打ち込んでパソコン上で音楽を鳴らしていた。
ただ、やっぱりFM音源3音+PSG3音というのは貧弱で、ピアノやトランペットの楽器の音も「なんとなくそれっぽく聴こえる」程度だった。ドラムに至ってはハイハットをホワイトノイズで代用していたのである。

そして大学生になったころに、『ミュージくん』というDTMパッケージが登場。この音を店頭で聴いた時には鳥肌が立った。リアル過ぎる。こんな音が本当にパソコンで鳴らせるのかと。
すぐにでも欲しかったが、やはり高かった。その後、廉価版のミュージ郎Jr.が出てやっと手に入れたのだが、それでも7~8万はしたと思う。
憧れの音源を手に入れてからは、ベーマガに載ってた楽譜は、片っ端から打ち込んでいた。実際プレイしたことのないゲームも、想像しながら作るのが楽しかった。
そしてアウトラン。これはもう本当に何度も打ち込み直した。ベーマガの楽譜にはドラムパートの譜面がないので、これはCDをテープに録音して、繰り返し聴いて耳コピした。耳コピしたのは後にも先にもアウトランのドラムだけである。

アウトラン楽譜

ベーマガの楽譜。今でもpdf化して持っている。※一部画像を加工しています

そんなアウトランの楽曲の中でも、一番時間をかけたのは『Splash Wave』である。4~5回はリメイクしたと思う。最後は、打ち込みソフトのメモリが足りなくなり、まとめるのに苦労した思い出がある。
確か増設RAM込みでも640KB程度のメモリしかなかったのだ。ハードディスクなど無い時代である。それでもGUIのソフトで動いていたのだから、今考えれば驚異的なメモリ効率である。
残念ながら、著作権の関係上作ったMIDIデータは公開できないのだが、なかなか良く出来たと一人悦に入っている。(自己満足)

雑誌などでもアウトランのMIDIデータは至る所で発表された。中でも一番アレンジが多かったのが『Passing Breeze』ではなかったか。
原曲は割と地味な方だったが、いろんな曲調にアレンジされ、楽曲の素材としては扱いやすかったのかもしれない。
『Magical Sound Shower』は打ち込むのが難しかった曲だ。楽譜通りに打ち込んでもイマイチ雰囲気が出ない。結局、満足な作品は出来ずに終わってしまった。

●グラフィック
アウトランのグラフィックについてだが、同じ時期にセガのファンタジーゾーンというゲームが流行っていて、自分は同じ系統の色使いだったなという印象がすごく強い。
パステルカラーを基調とした淡い色で、フォントもこれまでのゲームゲームしたやつ(言ってる意味わかるかな?)ではなく、ちょっと丸文字っぽさが入ったりして、セガのグラフィックと言えばこんな感じ、というイメージが自分の中では出来上がった時期でもある。

あとアウトランについてはやはり坂道の話が欠かせない。
登り坂で、思わず頭を上に上げたくなる(というか上げてしまう)のだが、もちろんそんなことしても先は見えない。
人がプレイしているのを見てると本当に可笑しいのだが、やっぱりそうなっちゃうんだよね。

ステージ分岐の際に、空の色がグラデーションで切り替わるのも良かった。
ただし、次のステージに進むためには、分岐の標識を通過したところで確か残りタイム12秒くらいないと通過できなかったので、もう間に合わないことが確定している場合は、わざと草むらに突っ込んでハンドルゴトゴト鳴らして終わらせるのがお約束。

●初クリアまでの道
ドライブゲームとしてのアウトランは、初クリアまでは結構な時間を要している。
全速では曲がりきれないコーナーが結構あるので、まずコースを覚えなくてはならない。しかしブレーキをかけ過ぎてもタイムを失い、関門に間に合わなくなる。安全運転過ぎてもダメなのだ。
制限時間はけっこうシビアで、初期の頃は1回クラッシュしたらほぼ挽回は不可能だった気がする。先のステージに進むほど残りタイムがジリ貧になっていくので、最初に貯金がないと「こりゃ3面で終わりだな」と薄々感じて、モチベーションが下がったもんである。

福岡天神の岩田屋屋上遊園地(現在はパルコ)にあったアウトランは、大型のムービング筐体だったが70秒設定で、見ていたら1面すら越えられない人が多くいた。確か200円設定だったから、とても自分はやる気が起きなかったが、今考えると一般の人にはちょっと厳しすぎる設定だと思う。中にはローギアのままトロトロ進んでてゲームオーバーなんて人もいた。

自分は、福岡市早良区の原ダイエー(今はイオンになっている)のゲームコーナーに置いてあった可動しない筐体で主にプレイしていた。学校の帰り道に寄って1回だけプレイして帰る、というのが日常だった。ギャラリーも少なかったから、落ち着いてプレイ出来たのである。どうしても納得行かない時だけは2回するときもあったが、100円/1プレイだったので、そんなに何回もできなかった。

その筐体は海外版で、大体いつも右側(分岐のことね)のコースばかり選んでやっていた。確か75秒設定だったと思うが、それでも3面くらいで終わることが多く、初めて4面の夕焼け面(WHEAT FIELD)に入った時は凄く身震いというか緊張したことを覚えている。
今考えてみても4面は難易度が高いコースばかりで、4面クリアまでには相当の壁があったように思う。
ただ、5面に入るようになってからは、クリアまでそう遠くなかったように思う。5面まで行ける実力があれば、距離も短いしそう難しくないのかもしれない。
だから、初めてのゴールの時より、むしろ初の4面突入の方が思い出に残っている。この、悪戦苦闘しながら少しずつ先に進む達成感が最高なのだ。その点は、ゲームの上手い人より、下手な分、より楽しめたんじゃないかと思っている。
ちなみに初ゴールは、EコースのLAKE SIDE.

●全コース制覇、そしてタイムアタックの道
初クリアしてもアウトランの魅力は尽きることなく、むしろ熱くなっていったように思う。
各ステージが変化に富んでいるので、全く飽きることはなかった。
家に帰ってからもBGMが頭の中を駆け巡り、これじゃ生活に支障をきたすと思い『セガ 体感ゲーム・スペシャル』というCDを買った。BGMを聴けば満足すると考えたのだが、いざBGMを聴くとよけいプレイしたくなってしまうという悪循環に陥り、結局私はずっとアウトランに恋したままだった。

アウトランは、安定してゴールできるようになってくると、次はゴール後の残りタイムを追い求めるようになる。というのも、残りタイムが得点にパララララッ…と加算されるのだが、残りタイムが多ければ多いほど、このパララララッ…という時間が長くなり、よりゴール後の余韻に浸れるというワケ。今日は速く走ったということをタイムだけでなく、まさに”体感”できるのだ。この演出はなかなか巧みだったと思う。

そして全15ステージも制覇し、タイムアタックも自分なりに煮詰まったように思えた。
そろそろアウトランもやり尽くしたかな…と思ったのだが、どっこいそうはいかなかった。

●ギアガチャの時代へ
ギアガチャの存在により、これまでの走りはまったく別のものになってしまった。
私の場合は、ちょうどノーマルな走りで攻略を終えたころにこの技が出てきたので、もう一度別のゲームとして楽しめる、一粒で二度美味しい状態だった。
でも、この技、裏ワザと言うにはデキ過ぎてますよね。最初からこの技を見越して作ったとしか思えないコース設定。
これまでドライブゲームでのギアというのは、ほとんどスタート時にLOW→HIに変えるだけの存在だったので、何かギアにも存在感を持たせたい、そういう開発陣の狙いだったのかも。

タイムアタックに関しては、4分40秒を切れれば上級者、という感じだった。
私はというと、全コース4分50秒切ったことで区切りを付けた感じがある。あと10秒縮めるのはとても無理だと思った。

●偉大すぎたゲーム
正直、もうこれを超えるドライブゲームは出てこないんじゃないかと思う。少なくともリアル世代でアウトランを経験した世代にとっては。あまりにも完成度が高すぎた。
30年近く経った今でも想い出は色あせないし、未だに移植版が出ているということがやっぱり凄い。
できるならもう一度実機でやってみたいなぁ、と思うゲームである。もちろんギアガチャで。

ここまで書いてきて、「そうか、自分はこんなにもアウトランのことが好きだったんだ」と気づかされた。なんだか好きな人に告白したような気分である。

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